私が小学生の頃、休み時間の「遊び」はドッジボールが定番だった時期がある。私がボールをキャッチするとお目当ての女の子だけを狙う、掟破りのストーカードッジボールである。だが、相手の女の子はスポーツ万能で、私の渾身の剛速球をヒラリヒラリとかわす。体がでかくて色黒だった私はさしずめ弁慶。美少女の誉れ高い彼女は牛若丸といったところか。パワー系なら得意だがスピードで劣る私は、逆襲に遭ってあえなく撃沈と相成った。 う〜む。牛若丸おそるべし。 ちなみにドッジボールの語源、「ドッジ」(dodge)は「よける」という意味で、ロサンゼルス・ドジャースの名前の由来にもなっている。ドジャースがまだブルックリンを本拠地としていた頃、この街の交通手段はトロリーバスが中心で、人々はそれをよけるのがうまかったから、らしい。 さて、そのドッジボールでかなわない牛若丸に私はいろんな「闘い」を挑んだ。パッチン(これは私の地方の方言でメンコのこと)コマまわし、けん玉、ビー玉、知恵の輪?木登り。だがことごとく返り討ちにあった。考えてみればどれもテクニック系だ。そして私は気づいた。この頃の子供の遊びにパワー系がないことを・・。 この牛若丸。美人でしかも成績優秀。学級副委員長を務めるなどクラスの人気者でもある。まったく非の打ち所のない子であったが、ある時、他校の男子生徒数人にからまれているところへ出くわした。いくら牛若丸でも男子とのケンカではかなわない。しかも相手は三人だ。「こりゃいかん!」なにしろ私は「弁慶」なのだから、死んでも牛若丸を守るあらすじになっているのである。「まて、まてー!」割って入った大男の形相に相手は一目散に逃げていった。 「だいじょぶか?」彼女を見ると、すり傷で赤くなった頬に涙がひとしずく。「牛若丸が・・な、泣いている」あの男まさりで気丈な彼女の姿からは想像できなかった。「やっぱり女の子だったんだな」私はそれまでのライバル心を忘れ、ふと愛おしくなっていた。しかし、彼女がつぶやいた言葉は「く・や・し・い・・・」。「えっ」なんと彼女は怖くて泣いたのではなく、負けたことによるくやし涙だったのだ。 う、う〜む。おそるべし牛若丸。 やがて彼女は6年生の時に父親の仕事の都合で転勤していった。時は流れて30代も半ばの頃だったか、その小学校の創立70周年記念祭の時にばったり出逢った。あのスリムだった牛若丸はデーン!と押しも押されもせぬ「コニシキ」に変貌。両脇には6人の子供が取り巻き、「ガハハ・・」と笑いながら、巨体をゆさぶり追いかけ回していた。 う、う、う〜む。おそるべし牛若丸。 ●
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