わたしゃあなたのそばがいい・・・
「どんなにうまい蕎麦よりも、わたしゃあなたの側がいい」なあんてね。雪深い隠れ宿で和服美人の女将さんに「おひとついかが・・」とかなんとか言われちゃって、お酌をしてもらい、日本酒をちびりちびりとやりながら蕎麦をすする。なんてのは日本人の醍醐味ですな。これでほろ酔い気分で温泉にでも浸かって、背中でも流された日にゃあんた・・。おっと!失礼! さて、秋の終りから本格的な冬にはいるこの時期は「そば」の季節。蕎麦は栽培期間が約90日前後。春に播いて夏に収穫する早生と、夏に播いて秋に収穫する晩生とがあり、年に2回作ることができる貴重な作物で、他の作物では育たないような痩せた土地や、山の斜面などでも比較的容易に作ることができる上に寒さにも強いことから、昔から米を作ることが難しい寒冷地や山間部などでは米の代用として貴重な穀物だった。 蕎麦が現在のような「そば切り」と呼ばれる「麺」になったのは江戸時代の始めころで、それまでは蕎麦の実を野菜と一緒に炊いて雑炊にして食べるのが一般的だった。ちょっと贅沢な食べ方が、現在の「そばがき」のようなものだったのである。 有名な蕎麦処というと、島根の出雲蕎麦を思い浮かべる諸氏も多いと思うが、ここの蕎麦は殻を除かず製粉するので色が黒いのが特徴。兵庫県の出石蕎麦もこれと同じ製法である。 さて、蕎麦屋ののれんにはよく「更科」という文字を見かけるが、やはり「そば」を食べる習慣のあった古代サラセン帝国(7世紀頃栄えたアラブ人の国で首都は現在のイラク・バクダッド)からきているという説もあるが定かではない。もちろん、それとは別に日本の「更科」にはちゃんとした由来がある。 「更科」とは、粗挽きした蕎麦粉をふるいにかけてできた最初の粉(通称、一番粉)だけで作った蕎麦の事で、新しい(さら)品、という意味から「さらしな」と呼ばれ、正しくは「更級」という文字を用いるが、特徴としては色が白く、高級蕎麦の代名詞ともなっている。 一般的に全国で食べられている蕎麦は、一番粉と、それを挽いた残りをさらに挽いて作る二番粉を混ぜたもので、つなぎとして小麦粉が使用されている。蕎麦粉8に対して、小麦粉2のものを「二八蕎麦」といい、蕎麦処信州の蕎麦は主にこの二八蕎麦である。他に山芋の粉や米の粉をつなぎとして使用する処もある。 蕎麦は昔から滋養食としても親しまれており、山伏などの修験者達は、そば粉だけを持って山に入り、水で溶いて食したと言われている。成分の大半は「でんぷん質」で、蕎麦の場合は他の穀物よりも消化が早く、また、タンパク質やビタミンB1、B2が多く含まれており、血管の老化を防ぐ「ルティン」も豊富に含まれている。 蕎麦というと、その薬味にはネギややまいもなどが一般的に使用されるが、ネギに含まれる「アイリン」はビタミンB1の吸収を助け、やまいもに含まれる「ムチン」はタンパク質の活用を助ける働きがある。「薬味」とはよくいったもので、医学も化学も栄養学も乏しかった時代、昔の人はどうやってこのことを発見したのであろうか。
2002.11.18
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