泣いてくれるなほろほろ鳥〜

 ♪泣いてくれるなほろほろ鳥よ〜。昭和13年発表の大ヒット曲「旅の夜風」(作詞:西条八十/作曲:万城目正)の詞の一部分だが、ここに出てくる、なんとも心地よい響きの名前を持つこの「ほろほろ鳥」が子供だった私にはすごく気になっていた。一体どんな鳥だろう?見てみたい!と、散々母親にせがんだものだが、「この町にはいないよ。もしかすると日本中さがしてもいないかも知れないねえ・・」と言われた。「そんなに珍しい鳥なのかあ」とその時はあきらめたが、ずっと心の片隅にひっかかったまま大人になった。確かに母親の言った通り、実際に「ほろほろ鳥」を見るどころか話さえも聞かない。やがて遠い記憶の彼方に消え去ろうとしていた30代も半ばの頃、なんと、我が町に「ホロホロ鳥牧場」なるものが誕生したのである。「日本でも珍しいホロホロ鳥の放し飼い、そして自然の中で健康に育ったこのホロホロ鳥の本格バーベキューを味わえるレストラン云々・・・」というような謳い文句だったと記憶しているが、チラシやポスターなどのコピーを見て、「えっ!ほろほろ鳥って食うのか?」とその時は驚いた。「ほろほろ鳥」という名前の響きからして、いかにも儚げでどことなく哀愁を感じていた私には、食用という現実となかなか結びつかなかったのである。
 調べてみると、「ほろほろ鳥」はキジ目ホロホロ鳥科の鳥で原産地が西アフリカ。エジプト時代にフェニキアの商人によってナイル河流域に伝えられ、王族の御用達料理になったそうで、今ではヨーロッパでは盛んに飼育されて、フランス料理やイタリア料理のメニューとして人気があるという事だ。が、とにかく、子供の頃に抱いた想いを叶えるべく、その「ホロホロ鳥牧場」に出かけた。    
 市街地から車で30分ほど山あいに入ったところにあるその牧場でようやく念願のご対面。そこでは20羽ほどが放し飼いになっていたが、名前の通り、ほんとうに「ホロホロ」と鳴くのである。そして愛くるしい目とユーモラスな体型。「これがほろほろ鳥かあ・・」。永年思い続けてきたということもあり、ましてや哀しげに「ホロホロ・・・」と鳴くその姿を見た後ではやりとても食べる気にはなれない。隣接するレストランに目もくれずに帰ってきた。
 その牧場はその後1年ほどでつぶれてしまった。立地条件が悪かったのが主な原因であろうが、噂によると飼育そのものがうまくいかなかったらしい。私としては、目の前であの愛くるしい姿を見たら誰も食べられないからだ。と勝手に思ったのだが、ニワトリは平気で食べるのだから勝手なものである。
 さて、鳥といえば「しゃっきんとり」なぁーんて、カビが生えるくらい古いオヤジギャグをひとつぶっ放したところで、他にも、当時の歌謡曲の中には時々、子供にとって「謎の鳥」が登場していた。「かけす」というのもその一つだが、このあまり聞き覚えのない鳥の名前は、有名な曲では春日八郎の「別れの一本杉」(昭和30年/作詞:高野公男/作曲:船村徹)の中の一節に、♪山のかけすも鳴いていた〜。という部分がある。子供心にも、山で鳴いているのだから鳥だろうくらいは分かったものの、それがどんな鳥なのかが妙に気になっていた。近所の爺さんに聞いてみると「それはカラスのことだよ」というから、それ以来、ずっと私は「かけす」と「カラス」は同一だと思いこんでいたのである。が、確かに「ヤマガラス」「アケガラス」という別名があるくらいだからカラスの親戚のようなものだろうが、「かけす」(懸巣)がカラスとは別の鳥だということが分かったのはようやく中学生になった頃である。
 「かけす」はスズメ目カラス科、体は真っ黒ではなく、やや赤っぽいグレーで頭や喉の部分が白い。それになんといっても鳴声が「カァーカァー」ではなく「ジィジイ」。まったくいいかげんなジジイである。
 これと似たような想いを抱いていたのが「つばくろ」(燕)であった。「サーカスの唄」(昭和8年/作詞:西条八十:作詞/作曲:古賀政男)に、♪旅のつばくろ さびしかないか〜。という一節が出てくる。あるいは、昭和35年に放映されていた藤山寛美主演のテレビドラマ「しゃっくり寛太」(読売テレビ)の主題歌(歌:橋幸夫)の中に、♪紺のはらがけスーイスイ、つばくろみたいに働き者で〜。というくだりがある。この「つばくろ」というのも、やはり、大人になるまでは謎の鳥であった。

2002.10.4

| BACK | CONTENTS | NEXT |

Copyright (c) 1999-2003 A Ringo House. All Rights Reserved.
掲載の記事・写真・イラスト等の無断転載を禁じます。記事の著作権はRingo Housoに帰属します。