嵐を呼んだタフガイ裕次郎

 昭和32年12月28日、日活の社員は総動員で都内を走り回ることになる。この日、石原裕次郎主演「嵐を呼ぶ男」が封切られたのだ。
 年末年始の興行は各社ともトップスターを起用して勝負に出る。しかし、結果は「嵐を呼ぶ男」の一人勝ち。日活の上映館はどこも人々でごった返し、社員は売上金の回収に追われたのだった。邦画6社の中では後発の日活は常に売上げで最下位争いをしているような状態だったのだが、この1本だけで3億5千万円の売上げ、日本映画界始って以来の2週ロングラン、しかも益々入場者数が増えるという大ヒットとなった。
 そして、前年の31年に「太陽の季節」で注目を浴びて以来、順調に人気を獲得していた裕次郎はこの1本でさらに大爆発。まさに嵐を呼んだ。
 不良っぽさと甘さが同居したルックスに股下82cmという脚の長さがウリだった裕次郎は、それまでのスターにはない、人なつっこさと飾らないキャラクターで多くのファンの心をつかんだ。また、彼はソフトな歌声で、映画と同時にレコードデビューも果しており「嵐を呼ぶ男」も同名主題歌で大ヒットした。

「♪俺らはドラマー やくざなドラマー」

 映画は、当時ブームだった「ジャズ」を描いており、裕次郎演じるところの主人公、国分正一も新進のジャズドラマー。クラブのセットや演奏シーン、舞台裏でのミュージシャンやマネージャーの駆け引きなど、その描写にはかなりのこだわりを感じさせる。いわゆるウソっぽくないのだ。演奏の吹替えも当時の一流ジャズメンが多数参加したというから「音」も本物である。
主題歌のほうも当然ジャズをベースにしている。印象的なハイハットから始るイントロ。間奏のドラムソロ、そして映画そのままのセリフ。このアイデアは見事で、当時の流行歌の中では突出している。
 ところで、裕次郎は「テイチク」所属だが、その「テイチク」は最初、この曲の吹込みを断っている。やむを得ず「日活」がソノシートを制作、1枚40円で発売した。ところがこれが大ヒットしたので「テイチク」は大慌て、監督であり、作詞者でもある井上梅次のところへ副社長が出向き、平謝りに謝って改めてレコード化して再発売。ことなきを得た。それにしてもこのソノシート、永年探し回っていますが見つかりません。仮にあったとしても相当のプレミアムがついて高いでしょうね。
 この曲はその後もコンスタントに売れ続け、通算で190万枚の売上げを記録している。

「嵐を呼ぶ男」
作詞:井上梅次/作曲:大森盛太郎/編曲:河辺公一

 ちなみに、映画「嵐を呼ぶ男」は昭和41年(1966)12月に、渡哲也によってリメイクされ、やはり主題歌もほとんど同じアレンジで歌っています。(この時の監督は舛田利男)
私は年齢的に、リアルタイムではこちらの方を先に見たのですが、この映画は今、見直してみると、梶芽衣子が太田雅子の名前で出ていたり、後に巨人の高橋一三投手の奥さんとなった橘和子。また由美かおるや若き日の杉良太郎などが出ていて、別の意味で興味深いものがあります。


主題歌のレコードジャケット、石原裕次郎盤と渡哲也盤。渡哲也盤は編曲が小杉仁三。
余談ですが、渡哲也盤のB面「世界でひとり」がなかなかいい曲です。
「世界でひとり」
作詞:星野哲郎/作曲:叶弦大

「嵐を呼ぶ男」のポスター
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